ある旅人が、旅の途中で道を見失い、 不思議な国に迷い込んでしまいました。 その国は、一つ目人間の国だったのです。 その国の住人は、誰もが、目が一つしかない人々であり、 旅人のように目が二つある人間は、 一人もいなかったのです。 その国に迷い込んだ当初、 旅人は、変わった風貌の住人を見て驚き、 そして、しばらくは、 彼らを不思議に思って眺めていました。 しかし、その国で過ごすうちに、 旅人は、だんだん孤独になってきました。 自分だけが二つの目を持つことが 異常なことのように思われてきたのです。 そして、その孤独のあまり、 ついに、その旅人は、 自ら、片方の目をつぶし、一つ目になったのです。 この旅人の悲劇は、決して、 遠い彼方の国の物語ではありません。 なぜなら、 我々も、しばしば、 この旅人のように、 自ら、片方の目をつぶそうと考えてしまうからです。 自分自身であることの孤独。 そのことに、耐えられず、 自分自身であることを やめようと考えてしまうのです。 非常に深い話。 自分の思いに対してどこまで貫く事ができるか。 周りに流されず、自分を見失わず、自分であり続ける事ができるか? この寓話はその事を教えてくれます。 ただ、自分を貫く事だけでは限界があることを私達は知っています。 アビリティとコンピテンス。 この言葉がいつでも僕の脳裏にあります。 自分を貫きながらも、全体の中で自分の力を発揮できる事。 この一見矛盾しそうな関係のバランスの中でこそ、力は発揮されると思っています。