======================================================= 田坂広志 「風の便り」 ふたたび 第91便 ======================================================= 世界の奥行 右目を閉じて世界を見る。 左目を閉じて世界を見る。 そのとき、 右目で見える世界と 左目で見える世界が、 違った形であることに気がつきます。 そして、 違った色であることに気がつきます。 わずか数センチ離れただけの 右目と左目でさえ、 見えている世界は、違う。 そうであるならば、 自分から見えている世界と 他人から見えている世界は どれほど違うのか。 その違いの大きさを思うとき、我々は、 そこに一つの逆説があることに、気がつきます。 右目と左目の世界が違うからこそ、 我々は、世界の奥行を知ることができる。 そして 自分と他人の世界が違うからこそ、 我々は、世界の深みを知ることができる。 その逆説に、気がつくのです。 2003年7月28日 田坂広志
「右目と左目ですら、見える世界が違う」
当たり前の事ですが、なかなか意識しない事ですね。
4月になり新入社員が入ってまいりました。
いつも、この時期は外食店長時代に新入社員を受け入れた事を思い出します。
私は、店長として3年間で14名の新入社員を受け入れてまいりました。
その時に、まさにこの違う世界を見ているという事を実感しました。
未熟だった私は一年目は自分のものの見え方で、彼らを見てしまっていました。
例えば、専門用語。
呑水【とんすい】 刺しチョコ ミネクー
といった、お店でよく飛び交う言葉は私達にとっては当たり前ですが、 彼らにとっては全てがはじめての言葉。
※ちなみに、呑水は深めの取り皿、刺しチョコはお刺身を食べる用の小皿、ミネクーはミネラル水をさします。
それを考慮せず、私達の常識の中で話してしまっては彼らが混乱するのは当たり前の事です。
もっと言えば、彼らの生活に関しても関わってあげられなければならない事に気づきました。
私からすれば、研修前の課題を研修前日までに終わらせること、遅刻をしない事など当たり前の 自己管理の世界。
しかし、昼夜逆転の生活になって生活リズムにも不安のある彼らにとって、課題を期限までに行う事、 遅刻せずに行く事がとても難しい事を知りました。
自分は君らの親じゃないんだぞ。
と、正直思ったこともありましたが、
いやいや親なんですよね。
新入社員にとって、会社に入って初めての上司が店長である私。印象に残らないわけがありません。
私が、全ての基準となります。私を見て彼らは育ちます。
私は親の愛情を持って彼らに接せねばならない事に気づきました。
自分の世界観で彼らを見てはいけない。彼らの見ている事実を受け止めてあげる。
それこそ、田坂先生がよくおっしゃられている、
「自分から共感しに行く」
ということをしていく必要がありました。
そうやって、関わっていくと、とても愛おしく自分の子供のように、時間をかけたい、彼らの行く末を見守りたい という優しい気持ちになる自分に気づきました。
何年かして、何人かは店長となりました。1人はめぐりめぐって私と一緒に採用の仕事をするようになりました。 折に触れてその社員が、「私の店長スタイルは、あなたから学びました」と言ってくれるのがとても嬉しいです。
「同行」
という言葉の意味を実感する瞬間です。
彼らのほうに自分から降りていく、そして彼らの中の世界を見つめる。
この事が本当の意味で、
「共感する」
と、いう事なのでしょう。
ありがとうございました。